NISTEP注目科学技術 - 2022_E229
概要
オルガネラ、液-液相分離した液滴、細胞接着装置などの細胞内構造体は、互いに協調しながらダイナミックに形態や機能を変換することで、個体の成熟や老化に大きな影響を与える。オートファジーやミトコンドリアは神経変性や老化に重要であり、細胞間および細胞外基質との接着や細胞外小胞は個体内の臓器間のコミュニケーションに必須である。これらは、細胞レベルでの解析は多く行われてきたが、組織や個体の中での解析は遅れており、特に生命の時間軸に沿った変化を細胞レベルで捉えることは困難であったが、近年の技術革新により少しずつ重要な課題が見えつつある。そこで、日本は細胞生物学分野に強いという利点を生かし、「成熟から老化までの生命の時間軸に沿って」「組織や個体の中で」細胞内構造体の動的変化と制御機構の解明を目指した研究を推進することを提案する。この研究分野を推進することにより、発達障害・老化・神経変性疾患など多くの疾患の治療戦略の土台を構築することができると考える。
キーワード
オルガネラ / 細胞膜ラフト / 細胞接着 / 老化 / 細胞老化 / 成熟 / 恒常性維持 / 発生 / 発達障害
ID | 2022_E229 |
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調査回 | 2022 |
注目/兆し | 注目 |
所属機関 | 団体 |
専門分野 | ライフサイエンス |
専門度 | 高 |
実現時期 | 10年以降 |
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 44 (細胞レベルから個体レベルの生物学) |
分析データ クラスタ | 41 (発生・分化・幹細胞) |
研究段階
細胞内構造体の研究は、オートファジー(ノーベル賞など)や細胞接着(ガードナー国際賞など)を始めとして国内研究者が著名な国際賞を受賞するなど、日本が世界をリードしている分野である。しかし、これらの研究を組織個体レベルに引き上げる仕事は少なく、生命の時間軸という見方を取り入れた研究も少ない。国内では、老化研究の大型プロジェクトが動いたが、主に代謝研究に偏っており、メカニズムまで踏み込むような細胞レベルの解析は少なかった。しかし、学会レベルでは個体の成熟や老化を取り入れた研究発表が増えてきており、脂質や糖鎖などタンパク質以外の生体高分子を扱う生化学会や、細胞内構造体を研究する細胞生物学会では、発達障害・老化・神経変性疾患などに向かう研究報告も増えている。
インパクト
2022年調査にはこの項目はありません。
必要な要素
この研究動向は、極めて未熟な段階であるため、基礎研究の積み重ねが必要な段階である。大隅良典先生の酵母の研究がノーベル賞につながり、現在ではオートファジーは個体老化の主要な原因の1つと考えられるところまで発展していることを鑑みると、オルガネラやオルガネラ間のコンタクト、細胞膜ラフトなどの膜ドメイン、液-液相分離などの基礎研究を強力に推進することは将来の社会実装の基礎となると考えられる。さらに、これらの細胞内構造体の形態と機能をまずは個体レベルに昇華させ、さらに老化や疾患との関連につなげていくような領域型研究を打ち出すことにより、ともすれば重箱の隅になりがちな生化学や細胞生物学を個体の生理現象とその破綻の研究へとつなげていく努力が必要な要素と考える。