NISTEP注目科学技術 - 2022_E219
概要
日本語が世界に先駆けて研究を推進している「分子ロボット」という研究分野に注目しています。DNAなどの生体分子を材料に、超微小なナノスケールのロボットを開発する研究分野です。特に、知的な振る舞いをする分子デバイスを作製する研究は、従来の単なる分子材料とは質的に異なり、非常に新しい研究分野であると言えます。例えば、薬剤を内包したカプセル型分子デバイスが、周りの環境情報をもとに知的な判断を下し、必要な場所・タイミングにおいて適切な量の薬剤を放出する、というような分子デバイスの作製を目指す研究があります。そのような分子薬剤デバイスの作製は、従来の方法論で作製された単一機能の薬剤分子とは全く異なり、プログラムを書き換えるだけで機能を変更可能な、革新的かつ画期的な方法論に基づいています。また、分子による知的な情報処理の側面にフォーカスして、「分子サイバネティクス」、「分子コンピューティング」などと研究分野が呼ばれる場合もあります。
キーワード
分子ロボット / 分子ロボティクス / 分子サイバネティクス / 分子コンピューティング / 分子プログラミング / 分子計算
ID | 2022_E219 |
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調査回 | 2022 |
注目/兆し | 注目 |
所属機関 | 大学 |
専門分野 | ナノテクノロジー・材料 |
専門度 | 高 |
実現時期 | 10年以降 |
分析データ 推定科研費審査区分(中区分) | 32 (物理化学、機能物性化学) |
分析データ クラスタ | 54 (理化学/分子化学) |
研究段階
論理ゲートのような単純な情報処理を行う素子を、分子レベルで作製することは比較的に容易に実現可能な状況です。現在は、素子どうしを組み合わせて、規模の大きい分子システムを設計する方法論の開発に挑戦している段階にあるといえます。また、環境分子のセンサーや、薬剤分子のような個別の分子もすでに存在しているため、将来的には、すべての素子をインテグレーションし、複雑なシステムを組み上げることが重要になると考えられます。
インパクト
2022年調査にはこの項目はありません。
必要な要素
現在は比較的小さい予算で研究が進められている状況で、様々な課題に直面しています。例えば、人的な資源を確保できない、大型・精密・ハイスループットな測定装置などを使用できない、成果主義によって時間のかかる重要な研究にとりかかれない、といった課題があります。また、「生物」「化学」「物理」「情報」「工学」などの、横断的な知識が必要な研究分野であるものの、そのどれにも分類されない新しい研究分野であり、その結果、世間的な認知度が低い状況にあります。学生へのアピールの場が限られるだけでなく、世間から漠然とした忌避感のようなものを持たれる場合もあります。今後は認知度をあげ、研究を志す人が出てくると良いかと思います。そのためには、学際的な研究分野が重要であるというメッセージを継続して発信していく必要があります。